安楽城らら

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この男。なんで黒助の事を知っているの。 私は目の前の青蓮寺と名乗った人物と始めて出会った。ましてや、こんな派手な知り合いなんかいない。 心臓がバクバクする。気持ちが悪い。 それは自殺しようと思った気持ちより、遥かに強い不快感だった。 「あなた、私の事を知っているの?」 「僕はなんも知らんよ。ただ、死んだ犬コロの霊に呼ばれただけや」 「!」 死んだ犬コロ。 あまりの言葉に何も言えなかった。 混乱する頭で何とか考える。 この男の人の言葉通りなぞると、黒助は死んでしまっていて。私の自殺を止めに、この人をここに連れて来たと言うことになるじゃないかっ! 「嘘よ。そんなの嘘っ! 黒助は売られて幸せに暮らしているの。そうじゃないと、そうじゃないと。あんまりじゃないっ!」 金網にへばりつくように言葉を吐く。 自分で嘘だと言ってみても、全く根拠がなくて悲しくて仕方ない。 しかし。男の人は至って冷静に。冷た過ぎる視線を一瞥くれただけで。 「そんな事情知らん。どうでもいい」 キッパリとそう言った。 「……!」 「犬や動物霊は無下にすると面倒くさいからなぁ。これぐらいでええやろ。ねぇちゃんの自殺に待ったは掛けたからな。さてと、後は死にたかったらお好きにどうぞ。ほな、さいなら」 ひらひらと着物の裾を揺らしながら、もう興味がないと言わんばかりに立ち去ろうとする男を「待って!」と引き留め。掴んだ金網に力を込める。 「あ、あなたはその。幽霊が視えるのね?」 「そやけど」 男の人は面倒臭そうに首だけを振り返り、青い髪を揺らした。
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