安楽城らら

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「あなたは呪術師で……私の自殺を止めに来た。それは犬の幽霊によって、呼ばれて。ここに来たから、なのよね……?」 「そう、言うたやん」 二度も言わせるなと、男の人の顔にありありと現れていた。 その表情を見て。わざわざこの人がここに来て、私を引き留める理由が、親切とかではないのは一目瞭然だった。 理屈では説明出来ない何かを感じた。 この人は霊能力と言うものを備えていると、信じざるを得ない。 今言ったことが、全てなんだろうと察した。 ──だったら、黒助はあの奥さんの元で。 もしくは売られた先で死んでいる。 そんなの許せない。 私から全てを奪って、黒助まで! せめて、死ぬ前に黒助の仇を取ってやりたいっ! ぐわっと怒りと悲しみが湧き起こった。 黒助の命まで奪われているのが、我慢ならなかった。それと同じぐらいに自分の不甲斐なさで心が、押し潰されるような気持ちだった。 わなわなと震えながら男の人、いや。青蓮寺さんを見つめる。 「お願い。私が死ぬ前に、呪って欲しい人がいるの」 ぎちりと、強く握った金網が軋んだ。 「へぇ。えぇけど。僕は安くないで。内容にもよるけど、最低でも着手金、十万即金。依頼は最低二十万からニコニコ現金払い必須やけど?」 「さ、三十万……」 そんなお金もうない。 死のうと思って、借金返済の為に家も解約して。家財道具を全て売り払い。ほんの少しばかりあったブランド品や貴金属は全て売って、何とか借金返済に当てた。 だったら──風俗でもなんでもしてお金を稼いだらいい。 三十万なら決して稼げない額じゃない。 元より死のうとしていた体。最後に黒助の為に使うぐらい何でもない。 このまま黙って死んでたまるか。 私のことはもうどうでもいい。しかし、黒助は私が不甲斐ないせいで不幸にしてしまった。いや、死なせてしまったのだろう。 もしかして、と思ったことは何度もある。でも、最悪の結末は考えないようにしていた。
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