安楽城らら

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「いや、ちょっと待って。ねぇちゃんは、死のうとしてたんやな。だったら、そやな。うん。金は要らんから──死んだらその魂。僕にちょおだい」 「え?」 「どんな事でもするんやろ? そもそも、体なんか要らんと思って、死ぬつもりやったんやろ? だったら魂を僕に寄越せ」 一歩、また一歩と青蓮寺さんが近づいて。 金網を掴んでいる私の手に、青蓮寺さんのしなやかな手が重なった。 その爪先も青く彩られ、どこか女性的な優美な指先に見えた。 しかし、着物の袖から見える手首にはタトゥーの模様があり。 男性特有の筋肉質な腕だとわかった。 そして──近くでみる青蓮寺さんの瞳は、黒水晶を思わせるような透明感でドキリとした。 側から見たら、私の自殺を必死に止める光景に見えたかもしれない。もしくは口説いているように見えるかもしれない。 しかし、私は手を握られ。悪魔に捕まったかのような心持ちだった。 悪魔でも悪霊でも何でもいい。 ポロリと、涙を一粒こぼしてから。 「分かった。私を好きにしたらいい。けれども、絶対に相手を呪って」 元より捨てようと思った命。 黒助の為に使い道があるなら、それが良いと思った。 「僕が呪いで失敗するとかあり得んから。交渉成立やな。おねぇちゃん。お名前は?」 「──安良城(あらき)らら」 「えぇ名前や。ららちゃん。これからよろしゅうに」 青蓮寺さんがニヤリと笑った。 金網越しに私達は見つめ合っていたが、決してロマンチックなものじゃなかった。 それはまるで捕まった犯人と。面会に来た刑事とか。そんなひりついたもので。 どちらが犯人で、刑事かは私には判断が付かないものだった。
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