安楽城らら

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それから私はおっかなびっくり。金網をまた超えて、廃ビルの屋上へと帰還した。 私は青蓮寺さんに黒助の仇を取って貰う代わりに、魂を差し出すと言ってしまっている。 これからどうするんだろう。 一体どうやって差し出せば良いのだろうかと、思いながら一先ず靴を履いていると。 青蓮寺さんが喋り掛けてきた。 「さて。ららちゃんは、自殺しようとしていたわけで。女性がこんな山の中に来て自殺って。身辺整理をしている場合が多いんやけども。ららちゃんも家とか、ライフラインとか。その辺は全部片付けて来たクチやろ?」 青蓮寺さんの耳に付いているピアスがしゃらりと、揺れる。 それと同じように私の心も揺れる。 色々と聞きたいことはあるけど。 ──ららちゃん。 ちゃん付けで呼ばれるとは意外だった。今更、訂正するのもアレかなと思い。ちゃん付けはそのままにしておこうと思った。 それよりも。 青蓮寺さんが言った『全部片付けて来たクチ』と言うのはその通りだった。 家は解約済みでここに来ていた。 スマホも全部解約した。 ポケットの中にある少々の現金と。運転免許証。電子マネーがチャージされたカードだけが私の全財産。 だから「そうです」と、短く返事をした。 実は家族や友人関係は奥さんによって、不倫を全て暴露されていて、絶縁されていた。 頼る人も居なかった。 「素直でよろしいな。ひとまずこの下に僕の車を停めているから、それに乗って。悪いようにはせぇへんから。今後のことについても道中説明するわ」 「分かりました。よろしくお願いします」 靴をしっかりと履くと。 青蓮寺さんが「じゃ、行くで」と飄々と廃ビルの中へと歩き出し。 その後ろを着いて行くのだった。
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