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安良城らら
「こう言う時は靴を脱ぐのが、作法だったかな」
かしゃんと、靴を脱いで金網を乗り越え。
降り立った先はビルの屋上のフチ。風が強く、髪をバサバサとはためかせる。
上を向けば快晴。自殺するにはあまりにも不向きな天候だと思っても、自殺に最適な天気なんかないだろう。
あと一歩踏み出せば、私の体は二十階ビルの下に叩きつけられ。吐瀉物みたいに内臓をぶちまけて、確実に死ぬはず。
しかもここは都会の喧騒を離れた田舎の廃ビル。
こうして、女一人昼間に廃ビルに侵入しても誰も何も咎める人は居なかった。
死んだらなおさら、私を見つけるのに更に時間が掛かるだろ。
はるか先の下を見ると、何か分からない廃材の山があり草木が生い茂っている。
「私もゴミの一部になるなんてお似合いすぎる。最後だからって、お気に入りのワンピースなんか着てくるんじゃなかった」
ここまで来るのに廃ビルの中を彷徨って来たので、紺色のワンピースはいつの間にか所々汚れていた。
本当にバカみたい。
ふっと失笑したつもりだったが、その笑いさえも風に流されてしまって。なんだか余計惨めな気分になった。
「まぁ、惨めな私にはお似合いかな……」
青空を見つめると、ここに来た理由が走馬灯のように記憶が駆け巡る。
私の二十三年間の人生の躓きは、単身赴任してきた職場の上司との出会いだった。
その人は凄く要領が良く。中堅広告代理店、勤めの私はそれがとてと羨ましいと思っていた。
この業界はやりがいも大きければ、残業も多く。忙しい日々。
その中で上司と意気投合していき。自然と距離が縮まり。お付き合いが始まり。
半年が過ぎたころ──上司は既婚者と言うことを知った。
私は何も知らなかった。
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