5. 謎の女性

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5. 謎の女性

 龍心は後退り、踵を返し走り出した。もう何も考えられず何も見たくなく、今すぐ逃げ出したかった。涙が溢れた。この騒動で彼が会場から逃亡したことなど誰一人気づいていない様子だった。  全て父のせいだ。父が隣町の神主と喧嘩したりなんかしなければ、こんな最悪な事態は招かなかった。伝統を軽んじ慣習を破ったために龍神の怒りに触れたのだ。  自分は母のことも救えなかった。父が母を殴り、祖母が母をいびっている時ですら。祖母は父の心を巧みにコントロールし、悪いのは全て母、一番頑張っているのは自分、自分がいないと父は生きていけず何も出来ないと刷り込んだ。単純で軽薄な父は実母を崇め余計に攻撃の矛先を母に向けた。  祖母が倒れ弱っていく中、母は病床に料理を運び身体を拭き献身的に看病をしていた。母は優しくて強いけれど、自分は逃げることしかできない弱虫だ。龍心は自己嫌悪で一杯になった。
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