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走り疲れさびれた料亭の屋根の下に蹲り泣いていた龍心は、不思議な気配を感じて顔を上げた。いつの間にか知らない女性——白い着物姿で20代くらいの、透き通るように色が白く切長の目をした女性が立っていた。
「こうなると思っていたわ」
彼女は呟いた。驚くことにその身体は雨に全く濡れておらず、はっとするほど周りの景色から浮き出て見えた。
「泣いていてどうするの? あなたも兄様に似て弱虫ね」
女性は龍心を見下ろし凛とした声で言った。
「あなたは誰?」と龍心が訊くと、女性は微笑んで、「そのうちわかるわ」と答えた。
「それより早く祭りに戻って」
「嫌だ、もう祭りは失敗だ」
「泣き言を言わないの」
女性はぴしゃりと言った。
「あなたは神社の跡取りでしょう、しっかりしなくてどうするの? 兄様は私と会うことと同じ位祭りを見るのを楽しみにしている。とりわけ神主の舞を見るのをね」
龍心ははっとした。父が倒れたために舞が途中になってしまっていたことを。それと連動してあの考えが再び浮かんだ。
「父さんが死んだのは、もしかして僕が死んでほしいと願ったから?」
「違うわ」
女性はきっぱり答えた。
「彼は余りに罪を重ねすぎて、天罰が下ったのよ」
龍心は胸を撫で下ろした。嘘でも本当でも、そう考えると救われる気がした。
その時騒々しい囃子と騒ぎ声がし、白い神輿が大急ぎで担がれて行くのが見えた。その後ろに続く地車と山車、白い法被姿の人々の姿も。大平町の一団と分かった。
「さて、そろそろ行かないと。私の町では皆念のため、祭りの準備をしてたの。君も早く来なさい、神主の代わりは君にしかできない。町を救うために強くなりなさい」
女性は言い残し駆け出した。やがてその姿は神輿の中に吸い込まれ見えなくなった。
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