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父の遺体が運ばれ、叔父と母が警察に対応している間も祭りは続いた。
勢いを増す豪雨の中、道路の両脇に集まる沢山の見物人達の中を、祭囃子を響かせながら華やかな一団が通り過ぎる。龍心の服も履き物も皆と同じくびしょ濡れだった。心臓は早鐘を打ち手脚が細かく震え、額からは冷や汗が吹き出していた。
——父が死んだ。
自分が死ねと願ったせいだ。
いや、きっと偶然だ。どのみち幸運ではないか。父が死んだのだから、母も自分ももう苦しまなくて済む。
そんな相反する思いが胸に渦巻いていた。
やがて龍神の心に一つの大きな懸念が浮かんだ。
父がいない今、この祭りはどうなるんだろう?
基本的に祭りを執り行う権限は神社に——神主である父に委ねられる。祭主を失った今、代わりを務めるのは叔父になる可能性が高いが、叔父も手を離せないとなれば代わりは龍心しかいない。しかし小学生の彼には荷が重すぎて、この事態をどう処理すべきかなど見当もつかなかった。
何より龍心は気掛かりだった。
妹に逢えなかった黒龍は怒りはしないだろうか。
祖母のあの言葉が蘇る。
轟く雷と降り頻る雨の中、龍心は前列の子供に合わせ機械的に踊りながら、大きな恐怖と不安に苛まれていた。
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