1、いう事を聞かない奴隷

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1、いう事を聞かない奴隷

 5年前に大原彩花は竹内と仕事上の付き合いで出会った。 その頃の彩花は、付き合っていた男がストーカー化して困っていた。自分は既婚者のくせに彩花が別れたいという意思表示をしたら付き纏いが始まった。男の面子が潰されたと感じたらしい。    彩花は二十代の初めに結婚したことがあった。夫は普通の企業のサラリーマンだった。結婚前の夫は時間に不規則な仕事の彩花を理解していたはずだった。筈というのはアテにならない。彩花の元夫は、結婚しても仕事のペースを落とさない妻に不満をためていったようだ。  結婚して5年目の日曜日だった。彩花は家で仕事をしていた。夫は日曜日なのに珍しく家にいた。インターフォンが鳴った。彩花が玄関に出ると彩花と同じ年頃の女が立っていた。知らない女だ。後ろから夫の声がした。 「俺の彼女だ。俺はもうこの生活にうんざりしている。別れてくれ」 彩花がショックを受けなかったと言えば嘘になる。でも、土曜も日曜も仕事だと言って出かけていく夫に疑惑がなかったわけでは無かった。目の前の女は、きっと夫の会社の部下かなんかなのだろう。いかにも普通の会社員だった。  離婚の話はスムーズに進んだ。事実は夫の有責で離婚する。夫の相手は社内の人間だ。すぐには結婚できないような相手だ。組織において社内不倫で結婚するのはキャリアの致命傷になる。夫は、今、離婚して3年ぐらいは大人しくして、あの女と結婚するつもりなのだと彩花にはすぐに予想がついた。  夫の弱みを突いて、僅かな婚姻期間にしては高額な慰謝料をむしり取った。 最後に夫と女に会った時「似たもの同士」だなと彩花は思った。この先が想像しなくても分かる。2人は、ほとぼりが覚めたら結婚して、すぐに子供を作るのだろう。そしてこの女は、亭主と子供の使い勝手のいい奴隷になるのだ。 奴隷になることを拒否したから、自分は離婚されるのだと思った。  離婚にはショックを受けたが、この出来事は彩花の人生の指針を定めるきっかけにもなった。  それから、彩花は何度も恋愛をした。そして出た結論は「恋愛の美味しいところは長くて3年」だということだった。
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