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8、大切なもの
「1人で大丈夫だから」という竹内を脅して宥めすかして、彩花は彼を自分のマンションに連れてきた。
月に2回しか会わなかったのは竹内も彩花も自分のペースを崩されるのを嫌ったからだった。2人とも我が強く絶対に喧嘩になると思っていた。月に2回も仲良くいるためのテクニックだった。
でも、今はそんな事を言っていられない。彩花は溜まっていた有給休暇を使い、残りは休職を願い出た。
これで、女性執行役員の道は消えた。
でも、今こうしなければ、きっと先で後悔すると彩花は確信していた。
目安は1回目の心臓血管外科の外来までの3ヶ月だ。
竹内の開胸手術の傷跡は背中から胸を回り込んでいた。術後1ヶ月経っていなかったので生々しい傷だった。最初の1ヶ月、痛みが酷く竹内は、彩花に当たり散らした。彩花は腹が立ったが顔には出さないように努力した。
後は只、3度の食事を用意して、お風呂の介助をして、竹内の洗濯物を洗濯した。薬と血圧の管理は竹内がしていたが、忘れないように声をかけた。
2人共我儘で、ずっと一緒にいるとストレスになる。なので、竹内にはリビングに居てもらって、彩花は主に仕事で使っていたパソコンが置いてある部屋にいた。時々、仕事もしていた。
食事の時間になると竹内がいるリビングを通ってキッチンに行く。食事は2人で食べる。痛みのせいで無言の鬼のようだった竹内が2ヶ月目に入った頃から話すようになった。
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