10、楽園

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10、楽園

 結婚は人生の墓場という。違う。恋の墓場だと彩花は思う。 竹内は、1度目の外来を受診して次の日には自分の家に帰っていった。 また、月に2回の互いの家の行き来が始まった。竹内は、あの命拾いから少し変わった。 「彩ちゃんが居なかったら死んでたよ〜」と言って平気で甘えてくるようになった。そんな時、彩花は軽く竹内を突き飛ばす。 「私たちは、ずっとこの関係でいいと思う。この関係は『楽しい』を長引かせる秘訣だもの。もしも、私たちが法律婚をしていたら、とっくの昔に普通の仲が悪い夫婦になっていたわ」 彩花は、どこまでもリアリストだ。戻った職場は同じデザイン室。役職も「室長」のままだった。でも上のキャリアはもう無い。それに対しては後悔はない。 竹内との短くはない付き合いを振り返ると、仕事なんかとは引き換えにできないものだと思う。 竹内の一軒家と彩花のマンション。この二つのお家は私たちの楽園だと彩花は思っていた。楽園だから永遠の恋愛の花が咲く。 付き合って10数年、今だに彩花は、彼のことを名前で呼ばない。 「竹内さん」だ。 たくさん撮った写真はアルバムにしてある。彼が先に逝ったら、清美に届けたいプレゼントだから大事に取ってある。
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