3、仮面夫婦

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3、仮面夫婦

 竹内と出会ったのは彩花が42歳の時だった。彩花はデザイン室の課長になっていた。 長く取引をしていたデザイン事務所が廃業することになって、紹介されたのが竹内のデザイン事務所だった。竹内は5人のデザイナーを抱える小さな事務所の実質の経営者だった。竹内の事務所は車からベビー用品まで多岐に渡る物のデザインを請け負っていた。  竹内の最初の印象は、いかにもフリーのデザイナーだった。同じデザイナーでも彩花のような企業勤めは、普通のサラリーマンと同じような格好をしている。竹内は間違っても背広など着てこなかった。竹内は年齢よりずっと若く見えた。彩花は初め竹内は年下だと思っていた。  打ち合わせの終わりに彩花と竹内は美術館の話をした。当時、開催されていた「浮世絵の展覧会」の話だった。仕事相手なので勿論、メアドの交換もした。  その頃、彩花は1人の男に悩まされていた。いつも恋愛の主導権は彩花が握っていたのに、彩花が何度「もう、会わない」と言っても納得してくれない。スマホを見るのも嫌になっていた。彩花のマンションの留守番電話に毎日必ず何かを吹き込んである。一応、既婚者だし会社勤めで、これ以上騒ぎ立てたら自分の不利になるのが分からない。学歴だけの大馬鹿野郎だ。  スマホに着信が入った。画面を見ると竹内からだった。 「来月の土日、どの日が空いていますか?浮世絵を見に行きませんか?」 この文面を見て、彩花は少し悩んでしまった。これは、デートのお誘いか?でも、竹内はいつもグループで美術館に行くと言っていた。 一度に2人の男とは関わらない。これは彩花のセオリーだった。まだ、アイツに付き纏われている。どうしたものか……
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