4、お家が二つ

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4、お家が二つ

 竹内は亡くなった実の両親が残した家に1人で住んでいた。彩花は、前夫から支払われた慰謝料と貯金を頭金にして買ったマンションに住んでいた。  竹内と彩花の付き合いは「通い婚」のようなものにだった。基本、お互いが一人暮らしで月に2回だけ週末を一緒に過ごす。場所はお互いの家だ。普段の日は、メッセンジャーで仕事の話や共通の知人の話で盛り上がった。  竹内の趣味はギターを弾くこと。彩花の趣味はイラストを描くこと。メッセンジャーを立ち上げっぱなしでお互いに黙って自分の趣味に没頭していることも少なくなかった。  彩花は、離婚してから、5人の男と付き合った。トラブルになったのは4人目のストーカー野郎だけだ。竹内も、その言葉を信じるならば、前カノとは綺麗に別れている。一番、拗れているのは今も婚姻関係中の清美だけだった。  彩花と竹内の利害は一致していた。それは「お互いの人生に踏み込まない」と言うことだった。  彩花にとって、竹内との関係は最高だった。彩花は威圧的な男が大嫌いだった。大抵の男は必要もないのに高価なプレゼントをしてきて、ドヤ顔をする。それをされると彩花は支配されているような気がしてしまうのだ。その点、竹内はそんなことをしない。  竹内はシビアな性格で、高価なだけのバッグや装飾品はプレゼントしてこない。理由は、値段に見合う価値がないと至って明確だった。反面、自分が造った1点ものの芸術作品をくれたりした。小さなオブジェのようなものを幾つも作ってくれた。
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