5、10年目

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5、10年目

 気がついたら、竹内との付き合いは10年を超えていた。彩花は52歳になり、竹内は57歳になった。 月に2回、計4日しか会わないから、飽きることはなかった。相変わらず、竹内の妻、清美の気配は全く感じない。竹内夫婦がどんな関係なのか深入りして竹内に訊くのは躊躇われた。 10年の間に子供のことは少し分かるようになった。2人いて2人とも女の子。1人は早くに結婚して地方へ行った。 今年中に下の娘が結婚するらしい。その日ばかりは「お父さんのふり」をするのだそうだ。彩花と竹内は毎日メッセンジャーで1時間話していて、どうやら清美とはメールだけのやり取りらしい。  夫婦の本当のことなど誰にも分からない。長い間、別居をしていても離婚しない夫婦の考えていることなど分かる訳もない。  10年の間に彩花は竹内に何度も尋ねた事柄があった。  「なぜ、夫婦仲が破綻したの?」  「価値観の違い」としか竹内は答えない。だが、そこには恐らくセックスレスの問題があると彩花は気がついていた。  竹内は、その大人しい雰囲気とは真逆の強い性的欲求を持っていた。月2回の通い婚でも殆どはベッドの中。 2人して年甲斐もなく「殆ど裸族だねぇ」と呆れて言い合った10年でもあった。裸にワイドサイズのTシャツだけを被って、代わりばんこに食事の支度をする。後は、2人でお風呂に入る。 セックスの合間の長いピロートーク。そんなことをしていたらあっという間に10年経ってしまった。 彩花と竹内の間では絶対に使わない言葉があった。 「愛している」だ。気持ち悪っ!と言うのが理由だった。
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