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6、勝手に逝くな!
彩花が53歳のある朝、珍しく竹内からメールがあった。
「今、病院に着いたところ。これから手術らしい。冷静に待っていてね」……それしか書いていなかった。竹内の事務所と彩花の会社の関係はあまり密ではない。竹内の事務所の担当社員も存在しない。
彩花は、竹内の事務所に直電をかけて竹内の容体を訊ける立場ではない。
今の彩花は、竹内の事務所に仕事を発注するクライアント側。それもデザイン室長なのだから。
あの竹内がメールを使うなんて只事ではない。きっと大変なことが起こっている。
彩花はマンションに帰ると竹内のことで頭がいっぱいになった。でも、竹内からの連絡を待つしかない。もしも、最悪のことが起こったら、竹内の事務所から報告ぐらいあるだろう……未だ、それはない。だから、生きている。努めてそう考えるようにしていた。仕事中でも心に隙間が開くと不安になった。
10日ほど経っただろうか。突然、メッセンジャーのチャットから竹内が連絡してきた。
「やっとスマホの許可が降りた。命拾いをした」
その画面を見て彩花は本当にホッとした。
竹内の病名は大動脈解離だった。Aに近いB型。命が助かったのは奇跡だ。事務所で苦しみ出して部下が救急車を呼んだ。
妻の晴美は手術中には病院に来たらしいのだが、途中で帰ってしまったらしい。それでも夫の命が助かって退院までに2度ほど病院にはやってきたそうだ。竹内が言っていた。
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