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手紙
こうして、エルヴィスは
300年の眠りについていたのだった。
彼女は幸せに生涯を終えたのだろうか。
思いを馳せていると、どこからか
鴉が飛んできてエルヴィスの肩に止まった。
嘴には黒い手紙らしきものを咥えている。
エルヴィスが手紙を受け取ると
鴉はカァッと鳴き、来た方向に帰っていった。
不思議に思いながらもエルヴィスは
宛名も何も書いていない黒い便箋の封を開ける。
すると中に入っていたのは白い便箋だった。
エルヴィスへ
貴方が目覚めたときにこの手紙を渡すように鴉に
言っておいたの。突然驚いたでしょう?
ごめんなさいね。でもわたしはいいお婆ちゃんで
先は長くない。だから鴉に
この手紙を託すことにしたの。
エルヴィス、あのときはごめんなさい。
怪我、痛かったわよね。
それにお別れも言えなかった。
それだけが悔やまれるわ。
エルヴィス、わたしね、結婚したのよ。
夫と二人の子供がいてもうすぐ孫も生まれるわ。
貴方が目覚めたとき、私はもう
この世にいないだろうけどね。
だから、わたしは幸せよ。
心配しないでね。
愛しているわ。
オリヴィア
その便箋に一粒の涙が落ちた。
あぁ、オリヴィア。
君が幸せで良かった。
安心すると同時にドクンと心臓が脈打った。
どうやらわたしも寿命のようだな。
エルヴィスは棺の中に入り
白い光を遮断した。
真っ黒い世界の中でオリヴィアが
幸せに生涯を終えて良かった。心からそう思った。
吸血鬼は笑みを浮かべながら
愛しい姫の夢をみながら
永遠の眠りについたのだった。
(終わり)
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