転校生

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バスが、雨の中を走っている。 私がウォークマンで曲を聞いていると、赤い傘を畳みながら麻里絵がバスに乗り込んで来た。 「南風さん」 と、麻里絵がすぐに私を見つけて手を振った。 相変わらず愛くるしい笑顔だ。 高校に入学しても、麻里絵は生きた天使だった。 「お隣、いい?」 「どうぞどうぞ」 バスの後ろのほうの2人用座席に並んで座る。 「何聴いてるの?」 「ドリカム最新アルバム」 「え、聴きたい」 私はウォークマンの片方のイヤホンを麻里絵に貸した。 「これ、聴きたかったんだぁ」 麻里絵が嬉しそうに微笑み 「でもすぐ着いちゃう。一曲くらいしか聴けないかも」 とクスクス笑った。 バスが揺れるたびに目の前のシートに立て掛けた赤い傘から雫が落ちた。 バスが停留所に停まり、まだ乾かないその傘を持ち、麻里絵はバスを降りていった。 窓の外で麻里絵は私に手を振っている。 雨の雫がついた窓越しに私も麻里絵に手を振った。
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