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最近では、上を見上げる暇もないくらいに下を向きながら、働きづめだった。
『雨と満員電車が嫌いだ』
平日の満員電車に揺られながら、つり革にも届かない手。その手を両手でバッグを必死に握りしめる。
こんな毎日は嫌だ。せめて手がつり革に届くくらいにはなりたい。電車の中でもボクは下を向いてばかりだった。
次々と電車が駅に止まり、とうとうボクの会社に着く。
はぁ~っと今までの電車の疲れでため息をつきたくなった。
「そんな分かりやすく満員電車で・・・・・・ふっ」
ボクは聞こえてきた声の方を向く。ボクの真後ろにいた背の高い同性がいた。完全に口に出してため息をついていたみたいだ。なんて恥ずかしい光景だ。
「わ、笑わらないでください」
最後の『ふっ』と微かに笑った同性に目が離せない。ここはちゃんと見逃さないのが、ボクのポリシーだ。
そうしている間に駅員さんが電車の呼びかける。
『赤坂駅、赤坂駅に止まります。降りる方はお足もとに十分注意してください』
赤坂駅は、ボクが降りる駅だ。この同性と、もうおさらばになる気分がいい。
(だって身長も180cmくらいありそうだし、他人のことにちょっかいを出してくるし・・・・・・)
つり革にさえも捕まえられず、満員電車で押しつぶされながらの平日。同性も同じようなものだろうけれど、つり革に捕まられるだけでずるい。
「はいはい、赤坂駅でもう降りるから、退散するよ」
注意したことは簡単に返事をして・・・・・・同じ駅だと⁉
「あんたも、同じ駅だと⁉」
満員電車で揺られながら、同性の胸板でボクの背中は支えられていた。
「じゃあ、改札口を抜けて階段上るまで一緒に行こうぜ」
「なんで・・・・・・」
「いいから」
同性に言われるまま、同性に引っ張られながら電車を降りて改札口をぬけた。階段上るまでに、なんの意味があるんだよって言いたくなった。
(変わったやつ、変人だ)
「ほら、上向いてみろよ」
同性に言われながら、上を見上げようとした。階段上るたびに外の光がまぶしく感じながら、見つめる。ビルだらけの街。
すると階段を上り終えたら、ビルより高く眩しい青空を見上げた。
「うわぁ・・・・・・」
「最近、雨続きで空真っ黒だったろう? だから。まさか男と見ると思わなかったけど、この綺麗さを誰かに見てほしかったから。あ、俺は一応カメラマンだから」
雨は、梅雨入りだから仕方なかったけれど空を深く気にしたことはなかった。下ばかりの暮らしで上を見上げたは久しぶりだった。
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