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「間違いない。あの凛とした佇まいは絶対に黒だ。私の探偵人生を賭けてもいい。」
「いくら先生だからってここは譲れませんよ。彼女は白です。」
珍しく先生と助手くんの意見が割れている。
先生、助手くん、私の3人はとある依頼を受け、N県の別荘地に来ている。
小さな探偵事務所の雑用係として勤務して3ヶ月が経った。私は主に事務所の掃除や書類整理、買い出し、運転を担っている。
大学卒業後、新卒で入社した会社は典型的なブラック企業で、サービス残業や休日出勤は当たり前。家にいるより会社にいる時間が長くなり、眩暈や頭痛、吐き気、謎の発熱が続き病院受診をしたところ休職をすすめられた。上司に相談すると新人のくせに生意気だと罵倒され取り合ってもらえず、現状以上に仕事を増やされ、このままでは会社に殺されてしまうと生命の危機を感じて退職した。
就職活動に費やした期間より、働いた期間の方が若干短いという事実に落ち込んだが、休職して3日目にはリクルートスーツと鞄、仕事で使っていた書類等を全て捨て、職場関係の人の連絡先を削除していた。
案外図太く生きていけるのかもしれない。
探偵事務所は父方の叔父が紹介してくれた。両親が高校生の時に不慮の事故で亡くなり、叔父に面倒を見てもらっていたが、再就職先までも目を掛けてもらったからには恩を仇で返すわけにはいかない。幸い、人間関係も良くやりがいのある仕事で続けていけそうだ。
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