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地球
かつて地球と呼ばれた星があった。美しい星だと伝わっていた。
「どのくらい前に滅んだんですかね?」
「さあな。いまこうしてみると、恐ろしく殺風景な星だな。過去にわれわれの探査機が送って来たデータとは大違いだ。あてにして来て損した」
「船長、つぎの星系に向かいますか?」
「ああ、もうこの星系に用はない」
巨大な宇宙船が、禍々しい光を放ちながら、かつて地球と呼ばれた星から遠ざかって行った。
「それにしてもずっとむかし、地球から来た探査船を思い出しますね、船長」
「ああ、あれな。いやまったく驚いたよ。まさかそういう方法でこの遠大な宇宙を航行しているとは、じっさい夢にも思わなかったな」
「おかげでわたしたちも、どんな遠くの星へも行くことができるんですから」
「いまごろあれはどうしているかな?」
半透明のからだのそれは、宇宙船の窓から見える真っ暗な空間をのぞき込んでいた。
「きっとまだ宇宙を飛んでますよ」
「ブラックホールに落っこちてなけりゃ、だろ?」
「まあ落ちたところでどうってことないでしょうね。なんせ死なないんですから」
「そうだな。われわれも霊体だからな。死は存在しないのだ」
異星人たちに、当然足はなかった。宇宙空間だ。足なんか必要ない。なんの不便も疑問もなかった。ただふと思うことがある。あの幽霊は何を考えながら宇宙を旅していたんだろう、と。たったひとりで、この真っ黒な空間を…。
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