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買い物から帰ってきた彼女が満足そうに戦利品をぼくに見せた。
どやっという言葉が顔中に書いてある。
「その顔はいい買い物ができたようだね」
手にしていた小さな端末をテーブルに置いて、彼女の満足をさらに増やすために興味のある顔をして見せた。
「なにかって来たのか見せてよ」
「見たい? 今日はさ~めっちゃ気に入ったものがあったんだ~」
語尾に音符マークがつくような口ぶり。よっぽどお気に入りのものが見つかったらしい。
彼女はガサガサとショップの袋の口を閉じているテープを外すと、勢いよく床の上にそれらを広げた。
こういう豪快なところやっぱ好きだなと苦笑いする。
「ずいぶん買ったな」
「セールしてたし。でも一番のお気に入りはコレ! セールじゃなくても一目惚れしちゃった」
彼女は数ある新たに仲間になった服の中から一着を取り出すと「可愛くない?」と自分に当てて見せた。
それはなんの変哲もないTシャツに見えた。
胸元に小さなパンタのイラストが入っている。正直、セールじゃなくても買う程かなと失礼なことが頭をよぎる。
「へー」
「あっ、正直よくわかんないなあって思ったでしょ」
さすがだ。ビンゴです。
でもそれを見抜かれないよう「違う違う」と首を振った。
「パンダ好きだったっけ」
「ん~普通」
「だよね」
どっちかといえば可愛いキャラクターものに興味のないタイプのはずだ。何が彼女の心を捉えたのかまだ見えてこない。
阿吽の呼吸のように彼女が服をひっくり返して見せた。
「これこれ! このしっぽ。なにこれって思ったら買わずにはいられなかったんだよ」
「あ~」
わかる。
こういうの好きそうだ。
正面は何の変哲もないTシャツなのに背中には大きなパンダの後姿としっぽがついてある。
その尻尾と言うのが立体で、丸いポンポンがちょうど腰のあたりに揺れているのだ。
確かにこういうキャッチーなものに彼女は目がない。
小さな英語のロゴはよくある意味の分からない日本英語だろう。いちいち読む意味さえない言葉が書いてある。
そう言えば昔英会話教室のジェイって教師が「日本の商品に書いてある英語はデタラメばかりでそんな英語はありませんよ」って苦笑いしていたっけ。
尻尾を握ってやるとなるほどちょうどいい具合に手におさまって柔らかい。こういう気持ちを休めるグッズがあったよな。
「面白可愛いじゃん」
そう言うとようやく満足したように笑って、その後も買ってきたものたちの紹介がいつまでも続くのだった。
考えてもみて欲しい。
こんなありきたりの風景がいつの間にか壊れていくなんて誰が思っただろう。
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