白と黒の秘密稼業

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「は……? なに、どういうこと……?」  彼女の着ていたTシャツのパンダの背中には小さなチャックがついていた。もちろん前から何度も見てきたはずなのに、それを変だとも思わず揺れる尻尾にばかり目がいっていた。  そのチャックがジーっと音を立てながらゆっくりと下がっていく。  まるで着ぐるみのようだと思って引き攣る。  じゃあ、中に入っているのは誰だ?  彼女? それとも? (待て待て待て!)  ぼくは馬鹿のように口を空けながらチャックが降りていくのを黙って見ている。彼女は何も言わずに笑っている。  目が虚ろだ。  それはもう彼女でいて彼女ではない……? 「何だよ、一体?!」  意味が分からない。  Tシャツのイラストが動くとか。  やめろ。目をふさぎたいのに体は動かず、ただ起こることを見つめ続けていた。  あの時、意味をなさないと読みもしなかった英語のスペルが目に飛び込んでくる。  そこにはこう書いてあった。 Get out of hire (ここから出ていけ)  出ていくのは……誰なんだ?  サーっと血の気が引いていく。  別の何かがそこにいるのかと思っていたけど違うのか?  出ていくのが彼女なのだとしたらその後に残るのは何?  消えた彼女はどこへ行く? 「やめろ…」  情けないほど声が震えていた。  足がガクガクと音を立てる。 「うわぁぁぁ!」  ぼくは勇気を振り絞ると開いていくチャックに手を伸ばした。  閉めればいいのか開ければいいのかどちらが正解かわからない。  出してしまうのか、このまま閉じ込めるのか。  なぁ、正解はどっち?  
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