人柱

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人柱

 すぐに二人は捕まり、それぞれ別室で見張りを付けられ、人柱の儀式の日まで監禁された。  儀式当日、紗代は白藤色の着物を着せられ、髪を後ろで一つに結ばれる。  りん姉さんと同じ姿だ、紗代は気付いた。 「ああ、やはりあの(ひと)は──」  自分と同じで、人柱に立たされた娘なのだと確信した。  手は前で拝むように紐で縛られ、その紐を腰に巻き付けられた。両手の間にはあの鈴が入っていた。  その姿のまま紗代は籠に乗せられ、完成した堤へと運ばれた。その最後の一部がまだ埋められておらず、そこに紗代は生きたまま入ることになるのだ。  大勢の村人が儀式を見守るために集まっていて、籠から降ろされた紗代が、神主の後ろを引き立てられるように歩くのを見守っていた。中には手を合わせ拝む者、お経を唱える者もいた。  名主一家も来ていたが、幸助だけは姿がなかった。どこかに監禁されたままなのだろう。 (親を失くした私がここまで生きてきたのは、この村と名主様のお陰)  諦めの境地の紗代が堤の前に立つと、目隠しをされた。  その時、にわかに雷鳴が鳴り響き、雨が降り出した。 「急げ! 急ぐんだ。これ以上雨が酷くならないうちに、儀式を終わらせるぞ」  宮司の声で、紗代は穴の前に引き立てられた。  と、大きな轟音と共にすぐそばに雷が落ち、辺りが光って一瞬皆の目と耳が自由を奪われた。 「さあ、あんたはお逃げ」  目隠しされた紗代に声を掛ける女がいた。声で誰かすぐわかった。 「りん姉さん?」  女の手が紗代の縄と目隠しを取る。 「あの男があっちで待ってるから急ぎな」  そう言うと、りんは目隠しを自分にした。 「でも……」  紗代は躊躇する。 「別にもうあたいは死んでるから関係ないさ」  りんはにやりと笑う。 「それにあんたはあたしを泥の中から拾って弔ってくれただろ? その恩返しさ」 「あっ」  紗代は気付く。あの時の白い髑髏は──。  りんはそれでずっと紗代を気にかけてくれていたのか。  皆の混乱が収まる前に、紗代はそっとその場を離れた。代わりに同じ色の服を着て目隠しをしたりんが立っているので、誰も怪しまない。  皆、固唾を飲んで儀式を見ている。 「お紗代、こっちだ」  幸助の声の方へ、紗代は急いだ。  雨が降る中、宮司が急いで祝詞を上げ、そして人柱を穴の中に突き落とした。 「うふふふ、あはははははは」  穴の中から、女のけたたましい笑い声が響いた。  同時に再び雷鳴が雷鳴が轟き、それを合図に造ったばかりの堤が崩れ、川の水が溢れだした──。    
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