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再会
1 ーナミー
ーーー黄泉の国に迎えに来た夫は、私の姿を見て逃げ出した。蛆がわき、雷を纏い、醜くなった私。
必死で追いかけた。それは恥をかかせた怒りか憎しみか。
それとも、もう愛されないのだという寂しさか悲しみか。
出口を塞ぐ大磐の手前で、私は憎悪を込めてこう言った。
「貴方が夫であってもこんなことをするのなら、私は貴方の国の人間を毎日千人殺してやる!」
とにかく、□□□□として生きていた頃でさえ出さなかった声量で、全霊を込めて呪いを叫んだ。
本心では無かった。
これで、貴方が謝ってくれたら。
この言葉は効力を発揮しなかったかもしれない。
なのに。
「それならば!私は千……いや、千五百の産屋を建てて、人間達を繁栄させてみせる!」
そう言って、離別の言葉を放った。
「今考えてもばっかじゃないの!?」
女は黒い石で作られた机を叩いた。
「あそこで謝るか何かしてくれたら、二体で一対の神、とかいう面倒臭い定義から外れることが出来たのに!そしたら陰陽の関係じゃなくなってたかもしれないのに!っていうか生まれ変われたかもしれないのに!」
ぽかぽかと机を叩いて喚き散らかす。その様子を、部下の男が呆れ混じりの息を吐いて見守っている。
「いつもの発作ですか。そろそろ出発の時間ですよ」
「わかってるわよ!」
女は勢いよく立ち上がると、服を整えながら部屋を後にした。
天地開闢から正確な年月はわからないが、二千年以上は確実に時が過ぎた。神武の帝からおよそ百二十以上も代替わりが行われた今を、人々は現代という。
その現代において、今もなお人々を脅かす存在が暗躍していた。
神代の頃に約束された呪いは具現化し、民草の魂を刈り取る。毎日千人……とはいかないが、三百人は必ずあの世へ送っている。
寿命、病、事故、殺戮。
悪逆非道のかぎりを尽くし、人間達からの畏怖を集めている女と、女が率いる軍があった。
名を「黄泉軍」。八人の雷と多くの醜女から成る、あの世からの使者。
それを率いるのは、冷酷非情の女神と謳われる「那美」と呼ばれる女であった。
「あはははははは!逃げ惑え!泣き叫べ!脆弱な人間ども、もっと我らを、私を畏怖するのだ!」
金色の瞳が歓喜と狂気の光を宿す。
「そういえば……私もついこの間依代を変えたばかりだし、あの人も新しい依代になってるのかしら……」
那美は自らの胸に手を当てる。今回の依代はなかなか居心地がいい。こんなにも親和性が高い器は初めてかもしれない。
その時、陽の気を帯びた矛が那美に向かって放たれた。
来た。
一番楽しみにしていた人物がやってきた。ああ、早く嬲りたい。そして今度こそ、謝らせてやる。
「流石に殺し過ぎですよ!黄泉軍!最近、数が減ってきているんですからあんまり狩らないでいただけませんか!?」
敵に放つ言葉にしては、やけに丁寧な口調だ。ああ、おそらく今回は依代が人格の主導権を握っているのだろう。
つまり、彼は彼の中にいるということだ。
少し残念だな、と思い声の主を振り返った瞬間、那美の体に電気が走った。
白銀の髪に透き通った水色の瞳。色白で今にも消えてしまいそうな少年。
那美は眼鏡をかちゃりと整えるフリをして、ガッツポーズしながら絶叫した。
『超好み《どストライク》きたあああああああああああああ!!!!!』
但し、胸中で。
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