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2018.7.吉日:スイカ割り ◀︎'24.7.13投稿
「あつい……」
「……それな……」
「あり得ないっしょ~……」
それぞれが口々にこの時期特有の呪いの言葉を吐きだした。
場所は空港。
だが、ここは常夏の島、という謳い文句のあの場所
「来た~~~~!! おっきな~、わっ!」
「古い……」
お調子者の誰かが叫ぶのを横目に冷ややかな反応を返す者もいた。
それぞれが飛行機から降りて外界と接するロビーに到着した時、ムアっとした熱気がロビーの玄関から入ってきた。
風が、生ぬるい。ぬるいを超えて熱い。熱波だ。
「はいさ~い、めんそ~れ~。よ〜こそおきなわへ~~」
ニコニコと笑顔で挨拶したのは目の覚めるような青色のデッカい花柄のアロハシャツを着て、やたらと元気なお姉さん。案内してくれるのはどうやらこの『磯永コーポレーション御一行様』と書かれた旗を掲げている女性らしい。
「はいた〜〜い、みなさ~~ん! ちょ~~~っとよろしいですか~~~~?」
「「「はい?」」」
あまりの暑さに全員すでに参ってるようで、返答の声もだるそうだ。
「これからバスに乗って、ホテルまで移動します~。乗り物酔いとかあったらすぐ知らせてくださいね~」
元気すぎる添乗員のお姉さんを横目に、暑さにやられた社員一同は沈黙していた。
今回、社員旅行で沖縄に来れたのは各部署の第1部隊。部を半分に分け、入れ替わりで別日に来ることになっている。
3泊4日と短いような長いような沖縄滞在が、部のトップのくじ引きで第1部隊に決まった時、ガッツポーズで喜んだのは遡ること3ヶ月前の話だった。
まさか、この時期の沖縄がすでにこんなに暑いなんて知らなかった……とは本人たちも思ったことだろう。7月初旬だというのに、なんと気温は余裕の35度超え。太陽はジリジリと肌と地面を焼け焦がし、車のボンネットからは蜃気楼が立ち上っている。
(本当に同じ日本なのか?)
そう思うのも無理はない。東京の空港を出る時は、小雨ふりしきる梅雨冷えした寒空の中、全員長袖を来て目的の飛行機に乗り込んだはずなのだ。そのときからの気温差は15度以上、体感では20度近かった。
「おねえさん、ここからホテルまでどれくらいかかるんですか?」
「あ~、えっとですね~。そんなにかからないですよ~。ご予約いただいた時、北部は観光で行くだけで、と承っていたので、宿泊は3泊とも同じ南部のホテルです~なので、明日は遠出しますが大丈夫です~今からバスで20分くらいで着きますからね~」
やたらとのんびりした応答に気が抜ける。
だが、添乗員のお姉さんも言っていた通り、バスの移動に20分。到着したホテルはかなりランクの高いリゾートホテルだった。
沖縄で南部にあるホテルにしては珍しくラグジュアリー感もすごい、値段もそれなりすごい、とのこと。ツアーの予約受付と相当交渉してもぎ取ったらしい。
「お、おぉ……すごい……」
ガーデンプールとインドアプールを備え、オーシャンビューとハーバービューが選べる個室に4人1組での宿泊になっていた。
『1人ずつの部屋になると、別途半額を個人別に徴収しますけど、どうします?』と企画していた広報にそう尋ねられれば、1も2もなかった。それでも噂によると4つ星ホテルというのだから相当なものだ。
「いや~、これは……すごい……オーシャンビューのホテルなんて初めて泊まるわ~」
感心して橋田が言うと、下北沢もため息をつきながら呟いた。
「ほんと。こんなむっさい人たちとじゃなくて彼女と来たかった~」
「おま、今それ言うなよ!」
部屋に到着してすぐに荷物の整理を始めた汐見に佐藤が聞く。
「え? 汐見、どっか出るの?」
汐見は他の3人の顔を一瞥しながら
「……お前ら、バスの中で話聞いてたか?」
「いんや?」
「何かありましたっけ?」
「っは~~……」
呆れて汐見が自分の腕時計を指差す。
「今、何時だ?」
「11時」
「だな。お昼、どうするか聞いてたか?」
「「???」」
「……たしか、え~と、夕食はレストランだから、昼はバーベキューで、とかなんとか……」
佐藤が、怪しい記憶を辿って答えた。暑さと興奮のあまり、バスの中で行われた説明を聞いている人間などいなかった。この部屋のチームでは汐見以外全員が。
「だな。ちなみに、今回、準備するのは開発部だ」
「え? マジで?!」
「そうだ。早く支度しろ、橋田!」
「え、ぇぇ~~~」
見るとすでに汐見の下半身は海パン姿で、上半身だけワイシャツになっている。
(??? あれ? き、着替えてたっけ?)
怪訝そうな顔で佐藤が汐見の海パンを見ていると、汐見は笑いながら
「海パンはズボンの下に履いてたんだよ」
「えっ! いつから?!」
「空港に着いてトイレに入ってから」
(なんつう用意周到な! ってか、ちょっとくらい生着替えシーンが見れると思ったのに!)
佐藤の淡い期待は見事に打ち砕かれ、さっさと準備を整えた汐見は気づいたら紺色のラッシュガードと鍔の広めな野球帽を被って廊下で待機していた。
「オレと橋田は先に行くから! 佐藤と下北沢はまぁ、適当に」
「なんだよ! 俺たち置いてけぼりかよ!」
「いや、営業だし、お前らも先に来たら手伝わされるぞ?」
「別にいいし」
(俺は汐見と一緒にいられる方がいいし)とは佐藤。対して下北沢は
「えー、俺はイヤっす……」
「じゃあ、下北沢は後から来い」
「うぃーす」
そう言って、橋田と佐藤と汐見は3人一緒に降りて行った。
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