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BBQをするビーチの砂浜はすでにものすごい熱を放っており、ビーチサンダルを持参していなかったうっかり者は近くの売店で島ぞーりを買う羽目になっていた。
灼熱の太陽(熱い)!
眩しい(熱い)白い砂浜(熱い)!
眼前に広がるエメラルドグリーンの海!
まさに夏!
沖縄!
リゾート!(酷暑)
という風景だが、熱さには勝てない。なのにその中でさらにBBQをしようと言うのだからちょっと気温的に危ないだろ、とその場にいる全員が思っていると。従業員らしき男性が準備中のテント内に入って来て
「一窯に2つ、業務用扇風機の貸し出しがありますので、そちら、ご利用くださいね」
熱中症対策かなんなのか、色々と用意されているものを紹介された。
(ありがたい)と思った汐見は早速BBQの準備に取り掛かり、すでに準備を始めていた広報の数人と、人数を再確認した後、肉やその他の食材の個数がちゃんと全員に行き渡る数がどうかチェックした。
BBQは滞りなく進み、全員が食べたり飲んだり海に入ったり、重役も良い感じでほろよい気分を満喫する頃には13時を回っていた。
それぞれの親睦や歓談は進み、各部署間での交流も和気藹々と楽しそうだ。
「お疲れ。そろそろいいんじゃないか?」
佐藤は汐見を見て声を掛ける。
紺色のラッシュガードは胸筋や背筋の形にそって汗染みを作っていて佐藤は
(めちゃくちゃエロい……)
肌の上に着た一枚を剥ぎ取りたい衝動に駆られていた。
(抑えろ俺……オーバーサイズな海パンは、マジ正解……)
今日の日のために甘勃ちくらいなら絶対わからないようなサイズをわざわざ選んで1ヶ月前に購入した。一緒に買い物に付き合った汐見に
『なんか、サイズあってないんじゃないか、それ?』と言われようと、いや、これがいい!柄が気に入ったから!などど言い訳して買った代物だ。
汐見に勧められた体にフィットした海パンを間違えて買ってしまった日には、今頃、微動だにできなかったに違いない。
(しっかし……この一枚下にはあの身体があるのかと思うとなんというか……)
ごくりと喉が鳴りそうになるのを抑えるのに佐藤は必死だった。
『はい、ちゅうも~~~く!! さて~~! 盛り上がってるところ悪いですが~!』
声を張り上げたのは今回の企画の1番の功労者、広報の山﨑詩織だ。よく通る声と、男女分け隔てなく接することと、おちゃらけたキャラで社の人気者だ。
『今から! 各部署対抗のスイカ割りをします!! スイカは全部で10個!! 全員で割ることはできないので! 部署で1人代表を決めていただいて、割ってもらいます!』
「「「「おぉ~~~!」」」」
『そして! 1発で割れた場合! なんと! 景品がありま~~~す!!』
「「「すげ~~~!!! 今年の広報すげ~~~!!!」」」
『景品は~~~!! みんな大好き!! アマギフどぅえ~~す!!』
「「「えぇ~~!! なんか夢がな~~い!」」」
「「「やった~~~~!」」」
賛否両論のコメントがそこかしこで沸いたが、そんなことお構いなしに、スイカ割りはスタートした。
ここでもスイカを割るのは希望者ではなく、くじ引きだ。
運がいいのか悪いのか、汐見はイの一番で割る権利を引き当てる。その後、次々に他の部署のメンバーが決まり10人が選抜された。
「なんで、こんな時に当たるかなぁー」
「ほんと引き強いっすよね、汐見先輩。俺がやりたかったのに……」
とは開発部の盛り上げ隊隊長兼宴会部長・原田。
「オレだって知らないよ」
『あ~、引いた人は責任持って割りに行ってくださいね〜! 誰かと交代は厳禁でぇ~す!』
汐見の内心を見抜いたように山崎が釘を刺す。
苦虫を噛み潰した汐見が、しょうがない、とスイカ割りの列に加わった。
割る順番はじゃんけんで決め、開発部は最後だった。
(まぁ、それまでにスイカ全部割れてるかもしれないしな)
などと呑気に構えていたが、結果は、最後まで3個が残っていた。
『さぁ~て!! 最後の大トリ~~!! 汐見さん! 気分はいかがですか?!』
マイクを持って駆け寄ってきた山崎に、いや~な顔をした汐見が
『……がんばります』
『元気ないですね~! 汐見さんっ! みんな、3個割り! 期待してますからっ! ねっ!』
『いや、普通に無理だろ』
見ると、割れたスイカは片付けられているが、3個のスイカは間隔を5Mくらい開けて見事に散らばっていた。
『だいじょ~ぶです! 汐見さんほどの人なら! 心眼で! できますっ!』
「……山崎、お前がやれば……」
ぼそっと汐見がこぼす。
「そんなこと言わないで。もっと盛り上がること言ってよ~」
「……キャラじゃねぇ……」
「まぁね~。ま、いいや」
『じゃあ~~! 最後のスイカ割り! 汐見さんですっ! どうぞ~!』
その合図で、広報の他の若い男性が汐見にバットを渡して目隠しする。
目隠しされた汐見にエロさを感じた佐藤はすかさずスマホを構えてシャッターを切った。そのまま動画に切り替えて汐見の行動を堪能している佐藤。
バットを砂浜につけた汐見が取手の端に額をつけてぐるぐる回ったあと、ふらふらしながら、バットを前に構えて立つ。
(あぁ~、目隠しもいいな~……バット構えてるのも。汐見、今度の草野球の試合、いつだって言ってたっけ?)
バットを構える汐見にも普通にエロさを感じるくらいになってしまっていた佐藤は、今回の社員旅行では死ぬほど動画と写真を撮りまくろうと、予備のスマホとデジカメまで持ってきていた。
「汐見~! 右だ右~!」
「汐見さん! ストップー! もうちょい左~!」
「ちがうぞ! 汐見! あと3歩進んでからだ~!」
「しおみ~ん!」
ちょいちょい野次が入るのもご愛嬌。
そのままぐるぐると指示する声に踊らされながら、汐見が一つのスイカの前に立った。
(あ、これ、今!)
「汐見っ! 今だっ! 振り下ろせっ!」
(佐藤! ここか!)
佐藤の声だけは別物として聞こえてきた汐見は、その指示を確信して容赦無くバットを振り下ろした。
バグんッッ!
「やった!!」
(やったか?!)
『汐見さんっ! ナイスですっ!!』
山崎のマイク音声で、目隠しを取った汐見は、目の前のスイカが綺麗に割れてるのを確認してほっとした。
『汐見さ~~~ん! あと2個残ってますよ~!』
「……他のやつにやらせろって……」
若干ぐったりしている汐見に山崎が駆け寄ってきて
『大トリ! お疲れ様で〜〜っす! アマギフはメールで送りますね~!』
というなんとも味気ない返答が返ってきて、ひとまずスイカ割りゲームは終了した。
わいわい騒いでいるテント内に戻ると佐藤が汐見に駆け寄ってきた。
「汐見、お疲れ! 綺麗に割れたな!」
「だな。っあ~、スイカの汁飛んだな……」
見ると、ラッシュガードのあちこちにスイカの汁が飛んでいる。点々とした弾けたようなシミが、汗染みと別の色なためにわかる。
「海かプール、入ってくるか?」
「んー、ぃや、ちょっとそこで1回流す」
「へ?」
言うや否や、汐見がその場でラッシュガードを脱ぎ始めたので
「や、ちょちょちょちょ、ちょっと!」
佐藤の方が慌てた。
「?? なんだ?」
「え、えっ、えっと、ちょっと待って!」
そう言うと、自分のビーチバッグから今羽織っているものと似たような緩めのジップアップ式ラッシュガードを汐見に渡す。
「別にいいのに」
「いいから! それ着ていいから!」
「……まぁ、ありがとう」
「うん……」
(あっぶね~~~!! あんなね! 首から下が白かったりとか、胸板の厚みとか、オレンジピンクな乳首を晒したらダメだって!! ただでさえ、脱いだら胸筋と腹筋がすごいからすぐ……って、おい~~~!!)
佐藤が邪なことを考えてる端から、止める間もなく汐見は完全に脱いでしまい、佐藤を魅了してやまない上半身は露わになってしまった。
すると、近くにいた女子が
「え?! 汐見さん! すごい! なんですか! めっちゃイイ体!!」
「そうか? まぁ、筋トレ日課だから」
「えぇ~~~!! ちょっと~~!!!」
「え? なになに?!」
「見て! 汐見さん! 隠れマッチョ!」
「わっ! ホントだ! すごい!」
女子が騒ぎ出すのを見て、佐藤は
(あぁ~~~……だからガードしてたのに……ホント、この人は……)
自分の守護虚しく女子に【汐見は隠れマッチョ】だということがバレてしまったことに──
佐藤はとても、とても後悔した。
◆◇◇◆
────これは、佐藤が汐見と出会ってから3年後の話。
誰にも邪魔されず汐見のそばで汐見の姿を愛でることができていたその頃の佐藤は、こんな時間がずっと続くと思っていた────
📝 2024/07/13 PM12:10ごろ投稿
初出:2022/7/24 このSSは某企画に寄せたものでした。
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