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圭くんは家に着くと、すぐにお風呂を溜める。
……やっぱり今から圭くんとするんだよな。上手くできるか分からないけど、初めてを好きな人とできるんだから、と不安を追い払って希望で塗り替える。
「ソファ座って。コーヒーはミルクと砂糖入れる?」
「あっ、いえ、おかまいなく」
部屋の隅で立って手を顔の前で振る。
「は? 俺が淹れたコーヒー飲めねーの?」
「ううん、飲みたい。俺はブラックで」
「じゃあソファ座ってて。そんなとこにいられると気になる」
そうか、そうだよね。部屋の隅で突っ立っていたら、圭くんが気を使っちゃうよね。
ソファの端っこに腰掛けて背を伸ばして浅く座る。
モノトーンでまとめられたスッキリとした部屋だ。……あまりジロジロ見たらダメだよね。
顔を正面に固定する。向かいにある電源の入っていないテレビに、緊張で強張っている俺が映っていた。
ソファの前にあるローテーブルにマグカップを置き、圭くんは俺の隣に腰掛ける。
「いただきます」
マグカップを掴んでふーふー、と息を吹きかけた。立ち昇る白い湯気が熱そうだ。息を吹きかけ続けると、圭くんからの視線を感じる。隣を見上げると視線が交わった。
「猫舌?」
「うん、熱いの少し苦手なんだ。あっ、コーヒーは好きだよ!」
「火傷すんなよ」
そう言うと正面を向いてマグカップに口を付ける。
優しい言葉を掛けられて胸が跳ねた。
俺も正面に目を向ける。真っ暗なテレビに、並んでコーヒーを楽しむカップルみたいに映っていて顔が緩んだ。
冷まし終えてコーヒーを一口すする。酸味の少ないすっきりとした苦味が楽しめるコーヒーだった。
「ごちそうさま、美味しかった。ありがとう」
圭くんは早々に飲み終わったのに、俺が飲み終わるまで隣でずっと待っていてくれた。マグカップを片付けるとバスタオルを渡される。
「風呂入って」
脱衣所に入り圭くんが脱ぎ出したからバクバクする心臓が更に大きく跳ねた。
「け、圭くん? 何で圭くんが脱いでるの?」
「俺も入るから。嫌なの?」
首が取れそうなほど思いっきり振る。嫌ではないけど、恥ずかしすぎて倒れそう。
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