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マンションのエントランスで固まる。緊張のしすぎで部屋番号が押せない。時計を見ると、約束の時間を3分過ぎていた。
圭くんを待たせてしまっている。早すぎても迷惑だろうから5分前に着いたはずなのに。
震える右手を左手で押さえながら部屋番号を押す。圭くんは出なかった。
……俺が悪いよな。時間も守れないんだから。
謝罪だけはしよう、とスマホでメッセージを入力していると、エントランスの扉が開いた。
邪魔になるだろうからスマホに視線を落としたまま端に寄った。正面に立たれ、影ができる。視線を上げると圭くんだった。
「圭くん、どこかに出かけるところだったの?」
俺が来ないと思って家を出た時に鳴らしちゃったのかな。
「洋司が道に迷ってるのかと思って」
遅くなった俺を心配して出てきてくれたの? 圭くん優しすぎる。
……待って、今、名前呼ばれた?
「部屋来て」
腕を引かれてエントランスをくぐった。
お家に入ると圭くんはお風呂を沸かす。やっぱり前回できなかったし、今日はするんだよね? ご飯に誘われても、食べる量をセーブしなきゃ。前回はカレーを作りすぎたから食べてくれる人が欲しくて、お家に誘われただけかもしれないけど。
ソファで待つように言われ、コーヒーを持ってきてくれた。
「ありがとう」
受け取ったマグカップは手のひらで触れるほどの熱さだった。湯気も出ていないし、ゆっくりと含む。息を吹きかけなくても飲める温度だった。
「圭くん、ありがとう。冷ましてくれてたの?」
俺が猫舌だって覚えていてくれたんだ。
「ぬるっ! こんな温度でいいの?」
「ごめんね、俺に合わせてもらっちゃって」
「嫌なら飲んでない」
圭くんは一気に飲み干した。マグカップをテーブルに置く。
「洋司も早く飲んで」
「あっ、うん」
全て飲み終え、マグカップをテーブルに置くと俺の肩に腕を回してもたれ掛かってくる。
驚きすぎて奇声を上げてしまいそうだった。
「洋司さ、座る時何で俺から距離取るの? 本当に好きなの?」
「いや、あの……。好きすぎて緊張すると言いますか。圭くんと付き合えるのが奇跡すぎて、まだ実感が湧かないみたいな感じで、不快な思いさせてたらごめんね」
「ふーん、それなら俺と一緒か」
……俺と一緒? それってどう言う事?! 混乱してるうちにお風呂の湧いた音楽が鳴った。
前回同様丁寧に洗われて、一緒に湯船に浸かって手でお湯をすくって肩に掛けてくれる。
ドライヤーで髪も乾かされ、食事もいっぱい食べた。少しでやめたら、不味い? と聞かれて否定するためにたくさん食べてしまった。本当に美味しかったから。
その後はまたバイクで送られて、今は自分のベッドで寝転がっている。
結局聞けなかったけど『俺と一緒』ってどう言う事?
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