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バイトのない日は夕方に圭くんの家に行って、お風呂と食事を一緒にして送ってもらう事を繰り返していた。
今日は何もない休日だから、初めて朝から圭くんのお家におじゃましている。
ソファで仰向けになった圭くんの上に乗って、抱きしめられながらひたすら頭と背中を撫でられている。
「圭くん、重くない?」
「腕と膝で体重掛けてないんだから重いわけないだろ。全体重掛けて楽にしろよ」
そう言われても無理! 圭くんの上に乗ることさえ厚かましいのに。
「圭くん、どうして俺の事家に呼ぶの?」
「どういう事?」
「だって、付き合う時圭くんは『自分優先で、自分のしたい事しかしたくない』って言ってたのに、全然そんな感じしないし。俺は圭くんと一緒にご飯食べてお風呂入って全部お世話してもらってるでしょ? 俺が嬉しいことばっかりだよ」
「俺は自分がしたいことしかしてない。俺の好きに愛でてるだけだ」
「そんなこと言われると、圭くんが俺の事好きなんじゃないかって勘違いしちゃう」
「勘違いじゃねーよ。好きでもないやつと付き合うわけないだろ」
手のひらをソファについて体を持ち上げ、圭くんの顔を見下ろす。
「え? でも告白した時の返事が『自分優先で、自分のしたいことしかしたくない』だったから、圭くんの嫌なことしていつ切られるんじゃないかって……」
「それでいつまで経ってもビクビクしてたのか。悪かった。大学入ってから洋司の事が好きで、そんな相手に好きだって言われて気が動転した。でも好きだって伝えられただけで終わりそうだったから、慌てすぎて変な言い方になった」
「圭くんは俺が好きなの?」
「好きだ」
「じゃあ何でお風呂とご飯だけでいつも送られるの?」
「下心ありで呼んでたけどさ、洋司が緊張してんの分かったし。よそよそしいのなくなったら、と思ってた。洋司の嫌なことは俺のしたい事じゃないから手を出さなかった」
「嫌じゃないよ。前も言ったけど、好きすぎて緊張してるだけで」
「俺と一緒って言ったから好きだって伝わってると思ってた。言葉が足りなくてごめん」
「表情も! 圭くん、お友達といる時は笑うのに、俺といても笑わないんだもん」
それは何で? 大学で友達と過ごしている圭くんを見ると心が痛んだ。友達といる方が楽しいんだろうな、って。
「……顔引き締めてないと、すぐに緩んでデレデレしそうだから。そんな顔、洋司に見せたくねーし」
「俺のして欲しい事って、圭くんのしたい事?」
「そうだな」
「圭くん、普通にして。顔、ゆるゆるにして」
目を見開いて、すぐに破顔する。お友達といる時とは違う甘くて優しい表情に安心した。圭くんに好かれていると。
「洋司、さっき嫌じゃないって言ったよな」
「えっと……さっきって?」
「俺が下心ありで呼んでるって言った時」
瞬時に顔に熱が集まる。圭くんの熱い視線を受けて、小さく頷いた。
身体を引き寄せられて、圭くんの胸に倒れ込む。キツく抱きしめられ、耳元で熱い吐息と共に囁かれる。
「今日、いい?」
「うん」
顔を首元に埋めて頷いた。
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