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今日絶対に告白する! そう意気込んで家を出た。
思い人である中条圭くんを朝見かけてから、ずっと一定の距離を保って追いかけ続ける。
圭くんは端正な顔に明るめのツーブロックが似合う華やかなイケメン。背は180は越えていると思う。腰の位置だって驚くほど高い。
そんな完璧な圭くんと、何もかもが平凡の俺が付き合えるとは思っていない。こっぴどくフラれてこの気持ちにケリをつけるために告白したい。
そう思っていたのに、朝から彼は友達に囲われていた。1人になるタイミングを伺うために、受ける必要のない講義も受けた。
昼前に大学を出たところで友達と別れる。
しばらくついて行き、話しかけるタイミングを見計らう。平日の昼間でも大通りは人の往来が多い。
今呼び止めると目立つかな。もしかしたら同じ大学の人も近くにいるかもしれないし。
そう思っていたら路地に入った。チャンスだと思って慌てて追いかける。
路地には人影なんてない。……見失った。
とりあえず奥に進んでみる。1番最初の脇道を覗き込むと腕を背中側にまとめて掴まれ、大きな手に口を覆われた。突然のことにパニックになる。
「朝からずっと感じてた視線はお前か? 誰だ?」
耳元で囁かれる低い声に鼓動が跳ねる。
圭くんがこんなに近くにいる! 掴まれている腕も顔から下も熱い。耳元で感じる息遣いや、密着している背中側に全神経を集中させて至福の境地に至る。
振られる前の思い出をありがとう。
「口から手を離すが大人しくしろよ。何かおかしな事をすれば腕がどうなるか分かるな!」
声が出せないので何度も頷く。口を覆っている手が離れて行き寂しく感じた。
「それで? お前は誰で、何で俺を尾けた?」
「あの、俺は同じ学部の谷沢洋司です」
なぜか腕を離されて距離を取られる。恐る恐る振り向くと、無表情で俺を見下ろしていた。
「何か用があったのか?」
半日尾け回していた俺の話を聞いてくれるの? 優しすぎるよ圭くん。
「あ、あの。圭くんの事が好きです」
「……それで?」
それで? 顔を歪めて拒否されると思っていたのに、意外な返事に戸惑う。
「それでどうしたいんだ? 好きです。それで終わりか?」
「えっと、できればお付き合いしたいですが、無理ならこそこそ眺めさせて頂ければ……じゃなくて、こっぴどく振ってください」
振られるために告白してるんだ。こそこそ眺めるなんて今までと変わらない。はっきり断られて圭くんを諦めたい。
「俺、自分優先で、自分のしたい事しかしたくないけど、それでもいいなら付き合ってもいいよ」
「え?」
「聞こえなかった?」
「聞こえたけど、……本当に付き合えるの?」
思いがけない言葉に脳がまだ処理しきれていない。
「で? どうすんの?」
「付き合う! 圭くん優先で付き合う!」
「そう、じゃあさっそく家来て」
腕を掴まれて引きずられるように歩き出す。
「圭くん、家来てって……」
「何? この後用事あんの?」
「ないけど……」
「嫌なの?」
目が鋭くなって、声が低くなった。慌てて首を振る。
「嫌じゃないです」
「そう、じゃあついてきて」
今から圭くんの家に行くの? 付き合って家に行くって、そういう事だよね? 子供じゃないんだから知識はある。経験はないけど。
心臓が痛いくらい激しく脈打つ。ここで怖気付いて断ったら、圭くんと付き合う事自体無くなってしまう。圭くんは自分優先だって言っていた。要求に応えられない俺なんてすぐ切られてしまう。
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