0人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
交通機関を使って帰ろうと近くの駅に足を運んだ彼だが時刻は二十時。
なんだが乗りたくない気分。
駅裏の細い路地へ身を潜めると、壁や建物を駆け上がる。家や建物、電柱をトントントンッと踏み台にしては宙を舞う。人並み外れたその力。暗闇の夜だから使えるモノ。
「あぁー気持ちいい。風っていいなぁ。右半分はスースーするから違和感あるけど。でも、人間が羨ましい。生きてるって『贅沢』だと思う。ご飯も食べれるし、感情も豊かだし……。友達や家族もいる。――僕なんか、独りぼっちだよ」
満月に照らされ、ジャケットとマフラーを靡かせる。気持ちいいはずの風が、だんだん寂しくて悲しいモノへと変わってしまう。
右半分を貫通するかのように、通りすぎてしまう風。左には皮膚や肉があっても、右にはない。半分だけ生きている心地がしないのだ。
最初のコメントを投稿しよう!