感情喰い

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 ドンッと左脇に男の肘が入る。 「グッ……」  あまり痛みはないが予期せぬ衝撃で手の力が緩み、ナイフを取り上げられ腹部に一発蹴りを喰らう。しかし、蹴りは右肋骨(ろっこつ)の下辺り。あるはずの臓器や肉が無いせいで、まさかの空振り。そして、肋骨に男の足が引っ掛かった。 「残念だね。背中からダイブして馬乗りになってたけど……あのままだったら酷いにはならなかったのになぁ」 「な、なんで足がッ抜けなねぇ」  真っ黒な雲に隠れていた、丸い月がゆっくり顔を出す。その光で男の顔、人体模型の顔。初めてお互いの顔を見る。 「ハロー」 「ひっ、化け物!!」  ヘラヘラと男に手を振る人体模型。それに対し、男は腰を抜かしナイフを彼に向けた。 「ふーん若い人なのかなって思ってたけど……おっさんだね。40代前半ぐらいのフツーのサラリーマン。パジャマ姿でウロウロして、ストレス発散で『誰でもいいから』ってそれは駄目だよ。言っても無駄だと思うけど……」  ポリポリと真っ白な骨である右手で頬を掻く。なんとも奇妙で不気味な光景。見ているだけで鳥肌が立ち、まるでホラー映画のゾンビやスケルトンでも観ているようだ。
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