0人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
ドンッと左脇に男の肘が入る。
「グッ……」
あまり痛みはないが予期せぬ衝撃で手の力が緩み、ナイフを取り上げられ腹部に一発蹴りを喰らう。しかし、蹴りは右肋骨の下辺り。あるはずの臓器や肉が無いせいで、まさかの空振り。そして、肋骨に男の足が引っ掛かった。
「残念だね。背中からダイブして馬乗りになってたけど……あのままだったら酷いにはならなかったのになぁ」
「な、なんで足がッ抜けなねぇ」
真っ黒な雲に隠れていた、丸い月がゆっくり顔を出す。その光で男の顔、人体模型の顔。初めてお互いの顔を見る。
「ハロー」
「ひっ、化け物!!」
ヘラヘラと男に手を振る人体模型。それに対し、男は腰を抜かしナイフを彼に向けた。
「ふーん若い人なのかなって思ってたけど……おっさんだね。40代前半ぐらいのフツーのサラリーマン。パジャマ姿でウロウロして、ストレス発散で『誰でもいいから』ってそれは駄目だよ。言っても無駄だと思うけど……」
ポリポリと真っ白な骨である右手で頬を掻く。なんとも奇妙で不気味な光景。見ているだけで鳥肌が立ち、まるでホラー映画のゾンビやスケルトンでも観ているようだ。
最初のコメントを投稿しよう!