名無し

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 日が暮れ、闇が包む十九時。  日中動かなかった男が動き出す。  季節は四月。桜が咲き誇り、新学期が始まるこの季節。楽しさで胸を膨らませている者もいれば、その逆の者もいる。  マンションから離れ、電車やバスの交通機関を使い、投稿者の元へ。今日は真夜中のライトアップされた散り桜を見ながらの、待ち合わせ。木の影に隠れながら、じっと静かに町続ける。彼は必ず十分前には待ち合わせ場所につく。そして、十九時少し過ぎて一人の女の子が駆け寄ってきた。 「あの……」 「ん、書き込みの子?」 「はい、今日はお忙しい中ありがとうございます」 「いやいや、ごめんね。お兄さん、夜道の方が好きでさ。さて、桜見ながら例の件について話そうか」  女の子の肩に左手を回すと、近くのベンチへ腰掛けた。花を照らす照明が、さりげなく男に当たる。すると、女の子は目を丸くする。いや、彼を見た人は決まって目を丸くしては、声にならない声を出す。 「ん? どうかしたの?」 「い、いえ……」 「そう。なんだ……死ぬなら聞いてやろうかと思ってたのに。で、何で死にたいの?」
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