名無し

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 女の子と出会ったのは――彼が立てたサイト『“救済箱”』という自殺書き込みサイト。 『疲れた……死にたい』 『なら、一緒に死のう』  一ヶ月前のことだが、何を話したのか全て覚えてる。  大体書き込みを入れる人はイジメ、人間関係、生きることに疲れたなど。何かと悩みを抱えている人達だ。彼も同じ何かを抱える人だが、普通の抱えている悩みとは違う。 「まだ、イジメられてんの? お兄さんが追っ払ってやろうか?」 「もういいの。誰も聞いてくれないし、見て見ぬふりされるから。私が死んで思い知った方がいいんだよ」 「ふーん。自殺願望か。どうやって死にたい? 飛び降り、斬首、一酸化炭素中毒、焼死、川に落とすのもいいよね? お嬢ちゃんは何がお望みよ」  優しかったはずの彼の口調がドンドン変わっていく。一つ一つの言葉に殺気が込められ、聞いているだけで怖くなる。ペラペラと呑気に相手を考えず言う言葉。だけど、耳にすればするほど【死にたくなる】。  催眠術なのかは分からない。ただ「死にたい」と頭の中で何度も囁かれ、目に光がなくなる。体に上手く力が入らない。男がゆっくり女の子の体を寄り添わせ、優しく頭を撫でた。 「お嬢ちゃん、深呼吸してゆっくり目を閉じてくれるかな? 僕が数を数えるから、頭の中を空っぽにしてね。怖くない。ただ、ちょっと体験してほしいことがあるんだ。行くよ? 1……2……3……」  彼はパチンッと指を鳴らすと、女の子が彼の膝の上にぐったりと倒れ込む。 「君は今から誰かの記憶の中へ行くよ。うーん、そうだねぇ。君と同じで、イジメをきっかけに自殺した人。学校の屋上で飛び降り自殺。夢みたいな追体験ってやつだ。『死ぬ』なんて簡単に言ってくれるけど、本当に良いのかい? 僕はそうは思わないけどね」
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