追体験 とある青年の話

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追体験 とある青年の話

「さぁ、君はゆっくり目を冷ます。そうだねぇ……屋上で昼寝でもしていたことにしよう」  語り手のような彼の言葉に導かれるよう、女の子はゆっくり目を開ける。ギラギラと光放つ太陽の日差しに、痛みを感じた君は体を起こす。すると突然、背後からバケツの水をかけられた。ヒヤリと冷たく、下着までびしょびしょに。  ケラケラと笑う男子の声。  それは一つではなく、複数聞こえた。 「やめて……」と声に出すが、それは心の声となり何事も発しない。 「お嬢ちゃん、追体験だから何を言おうが無理だよ。『追体験』の意味分かる? 誰かの体験を自分が体験したようにすること。だから、君は『傍観者』だ。また、分からないなら分かりやすく。FPS《ファーストバーソン シューティング ゲーム》。ゲーム好きなら分かるはず。主人公になりきってやるゲームだよ。  素手や足しか見えないから、僕達の視点と代わりはない。ただ、人の体を借りてるだけ。お分かり?」  動揺する彼女に優しく語りかける彼。しかし、彼の姿はない。彼の声だけが脳裏に響く。見えるのは雲一つない空と屋上にある柵。いつの間にか男子達は消え、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴った。 
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