追体験 とある青年の話

2/3

0人が本棚に入れています
本棚に追加
/33ページ
 午後の授業が終わり、帰りのホームルーム。鞄の中に教材をしまっていると、グシャクジャに丸められた紙を見つけた。  開いてみると『死ね』の一言。  悪寒と胸が締め付けられるほど苦しくなる。周囲の目が気になり、チラッと見渡すとクラスメイトがクスクスと笑っていた。  これは、ただのイジメじゃない。  集団によるイジメ。 (なんで……)と疑問に思うが、体は勝手に屋上へ続く階段を一段。また一段と上がっていく。 (やめて!! 止まってよ!!)  叫んでいるのに叫べない。  言っているのに伝わらない。  それは、イジメを受けていないから言える本心で、受けているときには怖くて言えなかった言葉。  気付いたときには柵を乗り越え、手を大きく広げて立っていた。すると、スッと体験者の体から意識が離れる。「アンタも一緒に死んでくれるのか?」といつの間にか体験者の横に立っていた。目元は影で見えないが自殺するというのに顔は笑顔。辛くても笑って自分を殺しているようにも見えた。  彼は彼女の手を握るや「イジメって嫌だよな。辛いよな……」と悲しくも切ない言葉に体験者の頬にツーッと涙が伝う。  女の子が追体験したのは、まだ入学したばかりの男子高校生の記憶だった。
/33ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加