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受け渡し場所は中華レストラン。女の父親の店だ。
「約束を守ったわね。誉めてあげても良くてよ」
黒いチャイナドレスを身に纏い、冷ややかな笑みをたたえた女は、円卓の向こうから私を真っ直ぐ見据えている。女の背後には屈強な男がふたり。油断のない眼差しで私の挙動を観察している。
三千万円を支払い、用は済んだ。私は立ち上がった。
「待って」
女は言った。
「聞かせてくれる? どうやって金を用意したのか。食べながらゆっくり話しましょう。私の奢りよ」
「けっこうです。帰ります。それから私、あの人のことはもう、一年も前から何とも思ってませんから」
「あんな男」
女は笑っている。
「私だって十年も前から何とも思ってないわよ。でも、泥棒猫は許せない。ただそれだけの話」
「失礼します」
足早に立ち去った。黒くんから長居はするなと念を押されていたからだ。
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