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エレベーターの扉が開くと、すぐ目の前に目指すその扉があった。
スポーツバッグから、分厚い少年漫画雑誌を取り出した。漫画雑誌をエレベーターの扉に挟んで閉まらないようにする。
帰るときエレベーターを待たずに済むように。
黒くんのアイデアだ。
六階には2525キャッシュと、ほかには深夜から営業を始める違法風俗店がテナントとして一店舗入っているだけだから、この時間に六階からエレベーターを使おうとする者はほぼ誰もいない。動かないエレベーターを不審に思った誰かが非常階段を使って六階までエレベーターの様子を伺いに来て漫画雑誌を取られでもしない限り、扉が閉まってエレベーターが動き出す心配はない。
計画に要する時間は五分間。五分が経過するまでなら絶対に大丈夫と黒くんは分析している。
2525キャッシュの入り口扉には窓がない。白い横長のプラスチック製の小さなプレートが貼りつけられ、素っ気ない字体の黒文字で〈2525キャッシュ・黒OK保証人不要〉と書いてある。
窓がないのは扉だけではない。通路に面した壁には窓らしきものが一枚もない。
扉の前に立ち止まり、深呼吸をした。
黒くん。信じてる。私が幸せになるためにすべきこと、その1――
――ヤミ金から現金強奪。
やれる。私はやれる。だって、私には黒くんがついていてくれるから。
扉を開けた。
店内――というよりも、誰の目に見ても暴力団の組事務所にしか見えない、そのどんよりしたどす黒い魔境へと、一歩、また一歩と、足を踏み入れてゆく。
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