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ふいに、電話が鳴った。壁際の机に置かれた固定電話だ。
応接椅子の周りでぶらぶらしていたアロハシャツの男が、その見た目とは裏腹に機敏に動いて、固定電話の受話器を鮮やかにつかみ取った。
「はい、神原組。おう、毎度。はいはい、はーい」
はいはいと頷いていたアロハシャツの男が、急に怒声をあげた。
「てめえこの野郎。返せねえのか。借りるだけ借りやがって、いざ返す段になったら待ってくれだ? 舐めてんじゃねえぞこの野郎!」
私の目の前のカウンターに立った黒シャツの若い男は、聞こえているであろうアロハシャツの怒鳴り声に何一つ心を動かされる様子もなく、ビジネスの説明を淡々とし続けている。
「こういう店は怖いイメージかも知れないけど、ぜんぜんそんなことないし。期限内にきちんと返してもらえれば、何の問題もないから。それで、実際のところ、あんたいくら必要なのかな」
「てめえこの野郎。やくざ舐め腐って、明日も生きてられると思ってんじゃねえぞ。山に埋めちまうぞこら!」
アロハシャツの巻き舌の怒鳴り声の響く中、手の空いた暇そうな男たちは涼しい顔で煙草を吸って、紫色の煙を吐き出して空中に輪っかを作って遊んでいる。まさにこの世の地獄だ。此処は地獄の番人の巣窟だ。
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