黒くん

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山奥に籠って、実弾を用いた射撃訓練も行った。「みさきちゃんはその気になれば黒社会の一員として生きてゆけるよ」と黒くんから太鼓判を捺されるまでになった。その気になれば、あくまでもその気にさえなればの話だが、黒星を使って目の前のやくざ四人を一瞬にして無力化――殺害――することも出来る。でも、殺しはしない。なぜなら目の前の四人のやくざは三千万円を差し出すから。何億通りもの可能性をシミュレートした黒くんが分析して導きだした結論に間違いはない。 やくざたちは、この場ではカネを差し出す。出さざるを得ないのだ。 組の事務所でもあるヤミ金の店内で発砲されたら組の面子が丸潰れだからだ。面子が潰れるだけではない。警察の介入を招くことにもなる。繁華街の真ん中の雑居ビルでの発砲騒ぎ。銃声は五階と七階、場合によっては隣のビルにまで響き渡る。通報でもされたら、とても誤魔化し切れるものではない。 * * * * 「こんな真似してただで済むと思ってるのか」 私は答えない。札束をスポーツバッグに詰めるのに忙しいから。 「女のくせに、いい度胸してやがんな。いったい誰の差し金だ」 カウンターを挟んで対峙する四人のやくざたちが、ぎらぎらする眼差しで私を見つめている。 三千万円分の札束をすべて詰め終えて、私はゆっくりと後退りしてゆく。
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