14人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「勘違いすんなよ。その金はくれてやったんじゃねえぞ」
アロハシャツが、毒蛇のような真っ黒い眼差しで、私を睨んでいる。
「利子つけて貸してやったんだ。利子はてめえの命だ。事務所で騒ぎを起こされても困るから今日のところはこのまま帰してやる。だが利子と三千万円は必ず返済してもらうぞ。何がどうなろうと、てめえと、裏で糸を引いてる野郎を探し出して、ふたりまとめてなぶり殺してやる。覚悟しとけ。楽には死なさねえ。お願いだから早く殺してくださいと泣いて頼みたくなるまでたっぷりといたぶってやるからな」
アロハシャツは語り続ける。
「両手両足を根元から切り落として達磨女にしてから大陸の変態どもにてめえの身体の肉を食わしてやる。向こうの国には生きたままの女の肉に噛りついて食い殺さねえと射精できねえような変態が山ほどいるらしいぜ」
アロハシャツは喉を鳴らして、床に唾を吐いた。
「一部始終を撮影してやる。それを海外の変態どもが眺めて楽しむんだ。動画の題名だが、黒い達磨ってのはどうだ。達磨になると肌が真っ黒く変色するらしいぜ。まるで他人事みてえな面してやがるな。さっきからてめえの話をしてんだぞ。わかってんのか姉ちゃんよう」
ただの脅しではない。予想されるやくざの仕返しとして、黒くんからあらかじめ聞かされていたから、きっとアロハシャツの言っていることは、荒唐無稽な作り話などではない。
私は黒星の銃口を四人のやくざたちに向けながら、油断なく後退してゆく。
扉を抜けた。通路に出た。エレベーターの扉は、漫画雑誌に邪魔されて、開いたり閉じたりを繰り返している。
私は走る。漫画雑誌を蹴り飛ばした。エレベーターに飛び乗った。
「待てや、クソ女が!」
やくざたちが、一発逆転を狙ってか、エレベーターの扉に飛びついた。三千万円を奪い返すつもりだ。しかしほんの一足違いで、どうにか扉は閉まった。
黒星をスポーツバッグに押し込んだ。エレベーターが一階に辿り着くのを待った。
やくざたちは非常階段を駆け降りているはずだ。しかし日頃から健康とはまるで無縁な不摂生極まる生活に首までどっぷり浸かったやくざたちが、垂直降下するエレベーターの圧倒的な速度に追いつけるはずもない。
最初のコメントを投稿しよう!