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おせっかいな同期
――なんなんだ、一体……
逃げるようにして中庭を立ち去った亮は、学内の小洒落たカフェテラスで気を落ち着けることにした。
――あれ? メール来てる……
通知はクリエイター向けのクラウドソーシングサービスからで、イラストの依頼が届いたことを告げていた。
――どうしよう。今月は出費も多かったから稼いでおきたいけど……
視界がおかしい状態が続いているのに、いつも通りに描けるかどうか不安でならない。
亮が依頼を受けるかどうか思い悩んでいると、せわしない足音が近づいてくる。
何事かとそちらを見やると、両手いっぱいに画材を抱えた哲が、息を切らせて駆け寄ってきた。
「やっと見つけた!」
「なんだよ、お前。その荷物……」
「君があのまま行っちゃうから、慌てて片付けてきたんだ。失くすと困るものでしょ?」
「そんなもの……」
亮はふくれてそっぽを向いた。
身体の不調で気弱になっている時に、今まで気にも留めなかった相手にむやみに構われるのは腹立たしい。
「ごめん、余計なお世話だったみたいだね。ここに置いておくから、後で持って帰って」
哲はそんな子供じみた態度の亮に軽く苦笑すると、荷物を亮の隣の座席に置いて立ち去ろうとした。
「あ、おい」
「ごめん、邪魔するつもりじゃなかったんだ。それじゃ、また授業で」
慌てて亮が呼び止めるも、哲は困ったように微笑むと、軽く手を振って立ち去ってしまう。
――くっそダセェ……いくらむしゃくしゃしてたからって、後始末してくれた人に取る態度じゃねえよな
亮は浮かしかけた腰をまた椅子に落ちつけながら、さすがに自分の態度が悪かったと反省した。
これではただの八つ当たりだ。
――ダセェ哲に頭下げるのはムカつくけど……これはさすがに謝らないとな
亮はすっかり氷が溶けてぬるくなったレモンティーを飲み干すと、億劫そうに立ち上がった。
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