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異変の始まり
(だっる……せっかく美大に入ったのに、なんで美術史なんて役にも立たない授業、受けなきゃなんねぇんだよ)
退屈な教授の話を聞き流しながら、亮はあくびをかみ殺した。
中学生で始めた「お絵描き配信」は登録者2万人を超え、ネットではそこそこの人気イラストレーターとして知られている彼にとって、教養課程の授業は時間の無駄でしかなかった。
(こんな下らない話聞いてる暇があったら、絵、描かせろよ)
ちょうど正午を回ったばかりの教室は、人いきれでむせかえりそうだ。
苦痛ばかりで面白みのない授業は、時間がカタツムリのようにのろのろと進む。
ようやく終鈴が鳴り、学生たちがガタガタと席を立った。
教授はまだまだ話し足りない様子だったが、残念そうに授業の終わりを告げる。
大きく伸びをした亮も廊下に吐き出される人の波に乗り、そのまま校舎の出口へと向かった。
建物から一歩足を踏み出すと、初夏の太陽がちりちりと肌を灼く。
恨めしい気分で見上げた空は、何故か青さがくすんで見えた。
(あれ……疲れてるのかな?)
あるいは、あまりに興味のない授業の味気無さに、ついに世界までもが色あせて見えるようになったのだろうか。
目をこすってもう一度空を見上げるが、抜けるように青いはずの空はどこかくすんだ灰色のまま。
(きっと、夕べ課題を仕上げるために徹夜したせいだ)
亮は軽く肩をすくめて自分に言い聞かせると、軽く頭を振って学食に向かった。
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