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ふと、がり、と何やら固い食感がした。なんだ、と取り出すと、それは薄くて固い、何かだった。
「なにこれ、骨?」
僕がそれを手に取ってまじまじ見ていると、リョウもそれを見つめる。
「軟骨かな……悪いな、処理の仕方が甘かったかも」
「へえ、自分で捌いた肉?」
「そうそう、なかなか大変だったんだよ」
「じゃあ本当に新鮮だ。凄いね」
「だろ。感謝してくれよな」
はは、と笑いながらも、リョウの顔色はどこか暗い。箸の進みも遅いようだった。やはり彼女のことが気になるのだろうか。仕方のないことだ。気分転換に、とテレビをつけようとすると、リョウがそれを止めた。
「せっかく二人で飯食ってるんだから、いいじゃんテレビとか」
「でも、もしかしたらニュースとかで」
「やめろって」
強い口調で言うリョウに、僕は言葉を失う。
気まずい空気が流れる中、言葉を探すように、僕は箸を鍋の中へと彷徨わせる。掴んだ細長い何かを、よく確認もしないまま口へと運んだ。
先ほどよりも固い、しっかりとした感触。まるで石でも噛んだかのような食感に、僕は思わず口からそれを取り出す。
最初に食べたソーセージのようにも見えるそれは、けれどあのぷりっとした食感はない。
「何、これ」
リョウは、その何かを、真顔になって見つめる。
「あー……それは、なんだったかな」
リョウが、何かを思い出すように、眉を顰めたかと思うと、「あっ」と声を上げた。
「そう、あれだ。ほらあの、スペアリブ的な」
スペアリブ。そう言われてみれば、そのようにも見える。
「そう、なんだ」
「そうさ」
「それにしては、随分肉付きが薄い、ような」
「外れの部位だったかな、悪い」
「そっ、か」
肉はあまりついていないとは言え、食べられないわけではない。僕は犬のように、それにかじりついた。リョウが作ってくれたものを、食べないわけにもいかない。まして、闇鍋なのだ。一度手をつけたら、食べなくてはいけない。
丁寧にスペアリブを食べる僕を、リョウがじっと見つめている。
「美味いか?」
「え? うん、美味しいよ」
「そうか」
僕の感想を聞いて、それきりリョウが黙り込む。
僕は、ただただ口の中のそれを、咀嚼し続ける。骨についた肉を綺麗にかじりとり、飲み込む。食べ残しがないように、骨を吸い尽くす。食べたことのないはずのそれは、どこか懐かしさを感じる味がした。
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