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「リョウも、食べなよ」
まるで観察するかのように、じっとこちらを見つめ続けるリョウに、僕は思わず口を開いた。その言葉に、リョウは目を泳がせる。
「ああ、いや、俺は」
「少しでも食べないと、元気出ないしさ」
そう言って、僕は彼の器を手に取ると、お玉を使って、適当なものをすくい上げた。
「ほら」
黒い液体の中から浮かび上がったそれを見て、
「――えっ」
悲鳴が上がった。
「なっ、なんで」
信じられない、と言った様子で、リョウが目を見開く。
白い、まん丸としたそれは、卵のようで、けれど、それとは違う。
まるで、それは。
「目、目?」
そう。
目玉のような。
「嘘だ、だって頭は、まだ」
思わず出てしまったのであろう声に、リョウは慌てて自身の口を塞ぐ。
「頭?」
尋ねると、途端リョウは顔を真っ赤にし、目を白黒させた。
その様子を見て、こらえきれず、僕はけらけらと笑ってしまう。
「やだな、これ、白玉だよ」
器を、彼の顔の前にまで持って行ってみせる。中に入っているのは、先ほど僕が鍋に放り込んだ具材だ。家で仕込んできたそれは、半透明の生地の中に、黒あんを練り込んであり、ぱっと見、目玉に見えなくもない。まぁ、そうだという思い込みを持ってみなければそうとは見えないものだけれど。イカスミの効果もあって、見分けにくくはなっている。
「お前、な、お前」
まるで魚のように口をぱくぱくさせてみせるリョウがおかしくて、僕はまた笑ってしまった。
「闇鍋なんだから、ちゃんと食べられるものを入れるに決まってるじゃないか」
そんな当たり前のことも、リョウは分からないのだろうか。
驚いた? と聞いてみるけど、リョウはそれに答えなかった。
「それより、さ」
僕は、改めて、リョウに向き直り、尋ねる。
「――頭、って?」
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