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その言葉に、弾かれたようにリョウはキッチンへと走り出した。シンクにあった、大きな肉切り包丁を手に取ると、こちらに向き直る。荒々しく肩で息をする様は、まるで手負いの獣のようだった。
リョウは血走った目で僕を睨みつけると、勢いよく包丁を振り上げ。
そのまま、床に倒れ伏した。
一瞬の静寂の後、彼の寝息のような呼吸音が聞こえてくる。
そろりと近づき、彼の意識がないことを確認し、ふう、と一息ついた。日本酒に仕込んでおいた薬が無事効いたみたいだった。少し、危ないところだった。
倒れたままの彼を尻目に、僕は奥の業務用冷蔵庫へと足を向ける。
そこは、彼の聖域。
人一人は余裕で入れる大きさのそれに、僕は手をかける。
ぎい、と重量のある扉を開くと、流れ出した冷気が足元へと広がり、そして。
「……見ぃつけた」
暗闇の奥にいた、ヒトミと、目が合った。
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