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「おいおい、なんだこりゃ」
鍋の蓋を開けたリョウが呆れたようにぼやく。
「これじゃ何入ってるか全然わかんねーじゃねーか」
リョウの視線の先には、ぐつぐつと煮えた土鍋。しかし、何鍋なのかはまるで判然としない。なにせ、汁が真っ黒なのだから。
「闇鍋ってそういうものじゃないの?」
僕がそう尋ねると、リョウは溜息をつく。
「食い物を入れる時に部屋を暗くするだけで、鍋そのものまで真っ黒にする必要はねーんだよ……」
そうなんだ。まぁ、イカスミはちゃんと食べ物だし、大丈夫だろう。
「まぁいいか、もう少し煮えたら食おう」
蓋をとじると、どっこいせ、とリョウが僕の前にあぐらを組んだ。
いい肉が手に入ったから鍋をしよう、と誘ってきたのはリョウだった。どうせ鍋をするなら面白い方がいい、と僕が闇鍋を提案すると、リョウは、一瞬呆気に取られた後、いいじゃん、と笑った。少し突拍子がなかっただろうか。でも、それでリョウの気がちょっとでも紛れるのなら、と思う。
肉のお礼に、と持ってきたビールを二人で開け、ちびりちびりと口にしながら、ちらり、と彼の顔を窺う。しばらく会わない内にやつれていた。食が細くなっているのだろうか。無理もない。こんな状態で鍋が食べられるのか心配になる。でも、頑張って食べてもらわないと困るのだけれど。
「けど、本当によかったの?」
僕の問いに、リョウが顔を上げる。
「何が?」
「いい肉なんでしょ? 闇鍋にしちゃってよかったかな」
僕から提案しといて何を言っているんだか。同じことを考えたのか、リョウは一瞬怪訝そうな顔をしてみせたが、すぐに笑った。
「まぁ、今回はその方が面白いかもなって思ったからさ」
「どういうこと?」
「食べてみてのお楽しみだよ」
「ふーん?」
何やら含みがあるな。まぁ、リョウが言うのなら楽しみにすることにしよう。
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