愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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「絶対に、私より先に逝かないでね」  それが彼女の口癖だった。  呪縛とも取れる言葉。  だが、彼にとっては、己を奮い立たせる糧でもあった。 「あなたがいなくなってしまったら、寂しくて死んでしまう」  泣きそうな顔で言った後、彼女は決まって、彼にひしと抱きついた。  力強く抱き締め返し、彼は笑う。『大丈夫だよ』と。まるで当然のことのように。 「君を置いて、死ねるわけがないだろう?」 「僕たちは、ずっと一緒だ」  彼がくれる言葉と、その笑顔とで。  不安は和らぎ、彼女もようやく微笑むことができた。  約束した。  ……約束したのに。  彼は約束を守れなかった。
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