愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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 彼女の一日は、朝食作りから始まる。  朝六時に起床し、顔を洗って身支度を整えてから、台所に立つのだ。  理想はご飯、みそ汁、卵焼き、焼き魚辺りなのだが。  時間がないため、朝はパン中心の献立になってしまっていた。  トースターで食パンを焼き、フライパンを熱してベーコンエッグを作る。  昨夜のうちに作っておいたサラダと共に皿に載せ、コーヒーを淹れて出来上がりだ。 (紗那の作ってくれた料理、もう食べられないのか……)  紗那の食事風景をぼんやりと眺めながら、司は大きなため息をつく。  彼女の側にいて、ストレスを感じることのひとつが、〝共に食事することが出来ない〟ということだった。  どんなに美味しそうなメニューが目の前に並べられていたとしても、匂いを嗅ぎ取ることも、箸を手にすることだって出来ない。  生前は当たり前にできたことが、何ひとつ出来なくなってしまったことが悲しくて、胸の奥がギュッとなるのを感じた。  涙を流すことは出来ないが、泣きたい気分だった。  紗那の側で見守り始めてからというもの、司は毎日、彼女のことばかり考えていた。  一緒に買い物に行った時の、楽しかった思い出や、何かプレゼントした時の、嬉しそうな笑顔。  司が病気になった時、付きっきりで看病してくれたことや、結婚式での綺麗な花嫁姿。  二人で旅行に出かけた時に見た、美しい景色。緊張してどもりまくったプロポーズの時、笑い泣きしながら、何度もうなずいてくれたこと。  結婚記念日に、毎年贈っていた花束――……。 「……ん? 結婚記念日?」  司は慌ててカレンダーに目をやった。
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