愛妻家Tは事故死後も妻を見守る

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 ――そうだ。もうすぐ結婚記念日ではないか。  五年目の記念日だからと、特別なことをしようとしていたはず。  だが、それが何だったのかが、どうしても思い出せない。  とても大切な――二人にとって、思い出深い何かだった気がするのに。  司は結構長い間、うんうんうなりながら考えていたが。  とうとう、思い出すことは出来なかった。  しかし、これで良かったのかもしれない。  何をしようとしていたかを思い出せたところで、彼はもう、彼女に何ひとつしてやることは出来ないのだから。  ならばいっそ、このまま忘れてしまっていた方が、自分にとっては幸せなことなのかもしれなかった。 (……だよな。紗那だって、過去にとらわれて生きるのは嫌だろうし。俺のことなんて、綺麗サッパリ忘れてしまった方がいいに決まっている)  そう思い直し、司は結婚記念日について考えることをやめた。
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